2015-01-29

「その人らしい生活のために」-看護師という仕事 vol.2

がん診療に特化した拠点病院で長年、看護師として働いている小夜さん。
高校の頃は「必死で頑張る」ということを避けていたという彼女は、友人からたまたま言われた一言がきっかけで、看護師への道を歩きだしました。
ある時、患者さんから相談を受けた小夜さんは、自身の「看護師としての思い」の土台となることに気付きます。
前回の記事【看護師という仕事vol.1】もご覧下さい。

患者の背景を見ていたい

看護学校卒業後、小夜さんは、実家から通える公立の総合病院に就職します。
やがて「もっと厳しいところで勉強したい」と考え、現在勤める、がんの専門医療機関へ移りました。

その病院で、外来・病棟勤務をそれぞれ10年経験した後、化学療法科に配属となりました。
主に抗がん剤の治療を行うところです。

たくさんの患者へ間違いなく点滴をし、抗がん剤治療による副作用に対してどんなポイントに気を付けたらいいのか、自宅でのセルフケアを指導します。

点滴

緊張が続く中で治療にあたるうちに、小夜さんは
「治療の段階を経ていくうちに、患者の気持ちが変化していく」ということに気付きました。

抗がん剤治療による副作用と闘いながら治療を重ねるうちに、患者は自分なりのパターンを掴んでいきます。すると「目の前の治療への不安」から「自分の生活への不安」へと、患者の気持ちの方向が変わっていくというのです。
それに気付いたのには、あるきっかけがあったと小夜さんは話してくれました。

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 ある時小夜さんは、進行胃がんで治療を受けている患者から「聴いてほしい話がある」と呼び止められました。
もう手術もできない状態で、抗がん剤治療を受けていたその女性は、物静かで、ほとんど弱音を吐くこともない患者でした。その彼女が小夜さんに、もう治療したくないと打ち明けたのです。

「どうせ、この治療の目的は完治でなくて延命だし、でも、そんなに延命できるものでもないでしょ。もう、夫にも迷惑をかけたくない」というのです。

「じゃあ、やめるように先生に伝えましょうかって、そんなことできない。患者さんの、治療したくないっていう気持ちは、そんな単純なところから出てきているもんじゃないって思った」という小夜さん。

「今は『もう治療はいらない』と思ってしまうほど、健康な自分を喪失して、動揺しているのかもしれないし、落胆して、とても治療のことには気持ちが向かないと。それが『もう治療したくない』という言葉になっただけかもしれない。だとしたら、患者さんの訴えを掘り下げて関わっていかないといけないって思いました」と話します。

 治療を受けることをどう思っているのか、治療によって生活のどんな部分で困るのか。
患者に起こる「副作用」という表面的な部分を見て「こうしたらいい」と指導するのでなく、その人の背景にあるものを見て接することが、自分たち看護師のすべきことじゃないか、と小夜さんは感じたのでした。

 そうは言っても実際には、患者は退院すればすぐに自宅での生活が始まるのですから、退院後に困らないようにするためのセルフケアの指導が優先されます。
また、次から次へと訪れる患者への対応もあり、変化していく患者の個別の思いに、充分対応する時間を取ることは、なかなか難しいのが現実でした。

それでも小夜さんは、どうしたら一人一人の患者の背景に寄り添えるかを考えました。
「(患者さんは)くじけそうになることや辛いこともあるだろうけど、どんな思いを持って治療を受けてるんだろうか」「私にできることは何だろう」と考えた小夜さんは、ある小さなことから始めてみることにしました。

抗がん剤治療に訪れる患者に「吐き気はありますか?」「熱はどうですか?」などの症状についての質問でなく、
「いつも、どう過ごしてますか?」と聴くように心がけたのです。

「釣りに行きたいねんけどな。ムカムカするから、(治療から)4日目ぐらい経たないと行けないねん」
「(治療に)お金がかかるから、あんまり出かけないようにしてるねん」

質問の仕方を少し替えただけのことでしたが、それは小夜さんにとって大きな変化でした。
治療が患者自身の好きなことや日常生活にどう影響を与えているのか、その治療に対して患者はどう考えているのかという「患者の気持ち」を聴けるようになったのです。
看護師としてする治療に関するアドバイスが、よりその患者に寄り添ったものになってきたと、小夜さんは実感しました。

目に見える部分だけでなく、その患者の背景にまで目を向けることは難しい現実がある。
けれど「どうしたらいいだろう」と、とことん考える。
この出来事は、今の小夜さんの「看護師として何をしたらいいか」を考えるベースになったようです。

<次回へ続きます>
(なお、小夜さんは今もがんの専門性の高い拠点病院で働いているため、お名前は仮名としています)
※写真はイメージです。

今だけ企画

ただいま準備中です。

できるだけいろんな方のお役に立てる企画をと考えています。

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