「その人らしい生活のために」-看護師という仕事 vol.5
癌に特化した専門病院の看護師・小夜さん。
患者が闘病を通して自分の命や行き方について向き合っている時に、「患者さんの背景」に寄り添う看護をしたいと考えています。それは、化学療法科の看護師と働く日々や母親の看護を通して、小夜さんの中で強くなる思いでした。
「できるだけその人らしい生活ができるようにしたい」と考え、そのために新しいことへもトライしていると話してくれました。
小夜さんの今までの話は
【「その人らしい生活のために」-看護師という仕事 vol.1】
その人らしい生活のために-看護師と言う仕事vol.2
その人らしい生活のために-看護師の仕事vol.3
その人らしい生活のために-看護師の仕事vol.4の記事をご覧ください。
【「がん」になっても変わらないものがある】
小夜さんは今、患者とじっくり向き合い、悩みや困りごとを聴いて支援をコーディネートしています。
「がんという病気って、症状を抱えながら治療と生活をしていくでしょ。そもそも今まで穏便に生活してたところに、ある日突然『がん』って病気がやってくるんだから、誰だってリズムは狂います」
病気が発見されれば、まずは治療することが優先されます。やがて治療とともに「生活」のカタチについて考える時期もやってきます。
「そのときに、リズムを元に戻そうとするのか、違うリズムに整えるのか、他の形があるのか、どんなことができるのかを考える。看護師は患者さんの背景を理解して、患者さんが自分らしいもとの生活に近い形を維持できるような関わりをしたい」と話します。
「体のどこかが『病気』の状態かもしれない。
でも、その人自身の本質的なもの、コアな部分、過ごしてきた人生や思いには変わりはない」と小夜さんはきっぱり言います。
一時的に見失うものがあったり不安にあったりすることもあるでしょう。
だからこそ、その人自身の核となっている部分、本質的なものを取り戻せるような看護をしたいと小夜さんは考えていて、それは患者自身へだけでなく、周りで支える家族に対してもそう思うのだそうです。
【必要な情報が広く届くようにしたい】
がんの治療をする患者が、今までの生活に近いカタチで過ごせるようにと願う小夜さんは「リンパ浮腫」への治療についても学んでいます。
それは、ある乳がん患者の抗がん剤治療の時の様子がきっかけでした。
両側に再発し、抗がん剤治療をしていたその患者は、リンパ浮腫によって両腕がパンパンに腫れていました。
リンパ浮腫とは、体内のリンパ管に障害があるため、老廃物の運搬や排除する機能が低下し、皮下組織に水分などが過剰に溜ってしまう状態を言います。
小夜さんがその患者と出会ったころ、一般的に、リンパ浮腫はがん治療の後遺症であり、治療法はないと言われていた時代でした。
抗がん剤治療を受ける時には、天井から包帯などで腕を吊るすなどして、楽な体勢になってもらうぐらいしか手立てがありませんでした。
「だるい、だるい」と言っているその患者に、小夜さんたちは何もできず不甲斐ない思いをしたと言います。
ちょうどそんな時、海外で『リンパドレナージセラピスト』の資格を取ってきたという人に出会い、リンパ浮腫に施す治療について知ります。
「これは、めぐりあわせだ!」
そう思った小夜さんは、医療リンパドレナージセラピストの資格を取る決意をしました。
月に2回金曜日に2時間だけ有休を申請、夜に飛行機で東京へ向かって、土日は朝からびっしり講義。日曜の夜10時に帰宅という生活を始めました。
母親の病気の介護を優先した時期もありましたが、2年のブランクを超えて医療リンパドレナージセラピストの資格を取得しました。
「治療による後遺症だ」と考えられていた時代には、がまんするしかなかったリンパ浮腫も、今は病気として捉えられています。日本人の3人に一人ががん患者であると言われる現在、当然ながらリンパ浮腫患者の数も増えています。
けれど、医療リンパドレナージセラピーは保険適用外の治療になるため、これを取り入れる病院の広がりがなかなか進まない現状もあります。
また、小夜さんは
「患者が得られる情報の地域差を感じる」と話します。
以前、近隣の都市で開催されたリンパ浮腫の患者会に出席した時、リンパ浮腫で悩んでいる患者たちが、リンパ浮腫についての情報を持っていないことに愕然としたと言います。
「本当に近くの地域なのに、持っている情報に差があると痛感しました」と言い、患者たちが情報を幅広く得られて、治療を選択できるようになってほしいと小夜さんは願っています。
「体に不自由さを感じても、その人本来のコアな部分を取り戻せるような看護をしたい」
そのひとつのカタチとして、小夜さんはリンパドレナージセラピストとしての活動をしていこうと考えています。
※写真内の人物等はイメージです。
※小夜さんは、現在も専門の医療機関に勤務しており仮名とさせていただきました。
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